こんにちは!
教養派アート入門メディア『3L museum』を運営している、白くま館長(@3Lmuseum)です。
観察力を鍛えるワークショップへようこそ!
今回のワークショップでは、美術にあまり詳しくない人でも知っているであろう有名な絵画を紹介していきます。
この人は”なに”に対してこの行動を取っているのか、ということを意識しつつ鑑賞していきましょう!
所要時間は約5分です!
また、このワークショップでは以下のものを必要とします。
ありあわせで大丈夫なので、読み進める前に手元に用意しておいてください!
作品を見てみよう!
それでは、今回のワークショップで使用する作品の紹介です!
まずは2分間「アウトプット鑑賞」をしてみましょう!
作品を見て「気づいたこと」や「感じたこと」を自由に書き出してみてください!
あなたは気づいた?サクッとチェック
ここでちょっと難易度の高いチェックポイントを紹介します! あなたは気がつきましたか?
どこからそう感じた?
次は自分の感想の中から1つ選んで、「どこからそう思ったのか」を深掘りしてみましょう!
そうすることで、より鮮明に観察することができるようになります。
例えばこんな感じです!
「叫び!」
→有名な絵なので色々なところで見る機会があったけれど、そういえば何に対して叫んでいるんだろう? 恐怖する時に叫ぶという先入観があるから、あんまり考えたことなかったな。
「アップにしないのはなぜ?」
→叫びというモチーフを目立たせたいなら、もっと人物にフォーカスを当ててアップで描けばダイナミックな雰囲気になると思うのに……。何か意味があるのかな?
ぱっと頭に浮かぶことで大丈夫です。それでは気楽に1分間でやってみましょう!
この作品はどんな作品?
深掘りお疲れ様でした。少し頭を使って疲れたと思います。
ここで、この知名度のある叫ぶ作品について紹介します。
これは『叫び』という作品で、1893年頃にエドゥアルド・ムンクによって描かれました。
国内での知名度はなかなか高いので、知っている人や見たことある人は多いのではないでしょうか?
2018年には、上野に『叫び』が来日したことでも話題になりました。
実は『叫び』には様々なバージョンが存在するのですが、今回は以前来日したムンク美術館所蔵の『叫び』を鑑賞していきます。(ちなみに、一番有名な『叫び』はオスロ国立美術館に所蔵されています。)
ムンクは19世紀末の象徴主義に分類される人物で、「孤独・不安・死・嫉妬」といったマイナスな感情を強烈に、そして独特に表現したノルウェーの作家です。
象徴主義については、こちらの記事で解説しています。
そんな彼が描いたこの『叫び』は、中央部で人が叫んでいるような様子を強烈に描いたインパクトの強い作品ですが、そもそもこの人はなぜこのような行動を取っているのでしょうか?
絵画を深く観察して、その謎を探っていきましょう!
描かれている人物に注目してみよう
まず最初に、描かれている登場人物を見てみましょう。
人数は3人。画面中央部の人が1人と、その奥に影のようなものが2人描かれています。
画面中央部の人物がインパクト強すぎて見落としがちですが、この『叫び』には3人の人間がいるのです。
では、この人物たちは誰なのでしょうか?
最初に画面中央部の人物をみていきましょう。
これは、ムンク自身をモデルに描いていると言われています。
耳を塞ぐように手を頬にあて、大きく目を開き、口を開け、鼻を空け、身体をくねらせ……。この強烈な描写は、『叫び』といったらこれ、という絵画のイメージを確立させました。
よく観察してみると、目が無いように見えたり、髪の毛が無かったりと、まるで骸骨のような顔のフォルムをしています。
皮膚が描かれていることで、より自分たちに身近に感じられませんか?
実はこの人、ムンクのとある実体験を元にこのような行動を取っています。この情景が深く関わってくるのですが、詳しくは後述していきます。
次に、奥に描かれている2人の人物について見ていきましょう。
黒い影のような2人の人物は、中央人物から見て遠くに描かれています。
遠近法が生きていますね!
2人は中央に向かって歩いてきているのでしょうか? それとも遠くへ行ってしまうところなのでしょうか?
館長の見解としては、後者ではないかと思っています。
まず、立っている場所の構造を見てみましょう。
手すりのようなものがあるため、ここは橋のような場所ではないかと推測できます。
この橋が画面左奥に向かって伸びており、そして2人はその伸びた先にいます。
さらに足の向きを見てみると、右足の方が前に出ていることがわかります。
このことから、ただその場に立っているというわけではなく、歩いていることが伺えますね。
右足を前に出していることが、「遠くへ行くという意味を表しているのではないか?」と館長は考えました。
ただ、利き足の人にとってはこちらに向かってきている、と捉えるかもしれません。
人間には利き足というものがあるそうで、右利きがおよそ7割・左利きがおよそ3割であると言われています。
館長は利き足は右足なのですが、もしかすると左利きの人にとってはこちらに向かってきていると解釈できるかもしれません。
次に、2人の表情をみてみましょう。
とはいえ、画面中央部の人物が表情豊かに描かれているのに対して、2人は影のようで表情すら伺えません。
表情が見えないことで、中央人物の表情の豊かさが引き立てられていることがわかります。
同時に、残されたような孤独感も感じることができますね。
最後に関係性ですが、友人である可能性が高いです。
理由として、友人と歩いていたというムンクの実体験が残っているためです。
実体験につきましては、後ほど触れていきますね。
情景を読み取ろう
人物の次は、環境について観てみましょう。
まずは真っ赤な夕焼け。
この燃えるような夕日は、『叫び』の代表的な特徴とも言えますね。
赤色が強調されていることで、激しさや生々しさが一層引き立っています。
黒い影のような人物の右手には、大きな湖あるいは海があります。
判断はつきづらいとは思いますが、湖(海)の中心に船らしきものが浮いていることから、水面であるという判別ができますね。
最後に右手にある複雑な地形です。
なだらかな曲線を描くこの地形は、入江や湾とイメージする人も多いかと思いますが、これは「フィヨルド」と呼ばれる地形です。
フィヨルドとは、氷河によって侵食されたことにより形成される特徴的な地形のことで、主にムンクの生誕地であるノルウェーをはじめとしたスカンジナビア半島にて多くみられます。
そのため、ムンクにとってのフィヨルドは見慣れた光景であったのかもしれません。
活動した地域特有の事象を確認できる、なかなか面白い作品だと思いませんか?
ムンクの実体験とは?
この絵画には、ムンクのとある実体験が関わっているとお話しました。
その実体験とは一体どのようなものなのでしょうか?
実体験は、ムンクの残した現存する手記から知ることができます。
ムンクはある日、友人たちと一緒に道を歩いていました。
その際に体調不良に見舞われます。
体調不良に見舞われたムンクは、大自然を貫く大きな叫びを聞き、耳を閉じるのでした。
「……あれ?」となる人がほとんどだと思います。ムンク叫んでなくない?
そう。実はこの手記に書かれている実体験を紐解くと、この叫びの人物は叫んでおらず、自然の叫びをきき、耳を塞いでいるのです。
前述の通り、「叫びの人物=ムンク」がモデルということなので、この叫びの人物が叫んでいない可能性がわかります。
うねるようなフィヨルドの大地、燃えるような真っ赤な空、確かに大自然がまるで叫んでいるように感じられるのではないでしょうか。
ゴッホはうねるような激しい筆跡で、感情を表現しました。
このムンクの叫びもそのように、自然の叫びを荒々しいタッチで表現したのかもしれません。
たしかに、耳を塞ぐのも納得ですね。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は、ムンクの代表作である『叫び』を紐解いていきました。
・画面中央の人物は叫んでおらず、自然の叫びに耳を塞いでいたことを知れた
・出生地から土地の特徴に気づくことができた
・人物にフォーカスすることで、どのような状況なのかを考えることができた
以上の体験をできたのではないかと思います。
とはいえ、画面中央の人も叫んでいるように見えますよね!
実際『叫び』という作品は、叫んでいる絵画というイメージが定着しています。
しかし、アート鑑賞で大切なのは自分がどう思うかです。
言ってしまえば、「この中央の人が叫んでいるよ!」と自分で思えば、それはある種の答えなのです。
むしろ、別の視点でこの絵画を鑑賞できているということにもなりませんか?
このワークショップを通してアート鑑賞の楽しさにより気づくことができましたら、ぜひその気持ちを大切にどんどん鑑賞してみてください!
以上で今回のワークショップは終了です。
ぜひ、ほかのワークショップも用意しているので、遊んでみてください!
鑑賞する力をつけ、新たな視点を探していきませんか?